健康情報
糖尿病予備群とは?血糖値が気になり始めた方へ

健康診断の結果を見て、「血糖値が少し高め」と言われたことはありませんか?
体調に異常は感じられなくても、検査結果にわずかな変化が見られる場合、それは身体からの重要なサインかもしれません。
糖尿病という言葉に不安を感じる方は多いですが、実際には「糖尿病予備群」と呼ばれる段階で気づき、生活を見直すことで発症を防げるケースが少なくありません。
自覚症状がないまま進行することも多いため、早期に正しい知識を持ち、生活習慣を整えることが重要です。
本コラムでは、糖尿病予備群とは何か、どのような状態であるのか、そしてどのようにすれば2型糖尿病の発症を防げるのかについて、分かりやすく解説します。
健康診断結果の血糖値が高い? どういう数値の人が糖尿病予備群になるの?

健康診断で指摘される血糖値の異常には、「空腹時血糖値」や「HbA1c(ヘモグロビン・エーワンシー)」などがあります。
糖尿病予備群(境界型糖尿病)とされるのは、次のような数値の範囲に該当する場合です。
- 空腹時血糖値:110〜125mg/dL
- 75gブドウ糖を飲んで2時間後の血糖値(OGTT):140〜199mg/dL
- HbA1c:5.6〜6.4%
このいずれかに該当すれば、糖尿病ではないものの「予備群」として注意が必要とされます。
特にHbA1cは、過去1〜2か月の平均血糖値を反映する指標のため、継続的な血糖の高さがうかがえるものです。
つまり、「そのうち下がるだろう」と様子を見るだけでは危険であり、数値の推移を追いながら早めに生活改善に取り組むことが推奨されます。
糖尿病予備群(境界型糖尿病)とは
糖尿病予備群とは、正式には「境界型糖尿病」と呼ばれ、血糖値が正常よりも高いものの、まだ糖尿病とは診断されないグレーゾーンの状態を指します。
厚生労働省の調査によると、日本国内には糖尿病の疑いがある人が約1,000万人、さらに予備群が約1,000万人いるとされ、成人の5人に1人が何らかの血糖異常を抱えている計算になります。
糖尿病予備群の段階では、すでに体内で血糖コントロールに異常が生じ始めています。
主な原因は「インスリン抵抗性」と「インスリン分泌不全」という2つのメカニズムにあります。
インスリンとは?血糖コントロールに欠かせないホルモン
血糖値の調整に深く関わるのが「インスリン」というホルモンです。
インスリンは、すい臓(膵臓)のβ細胞から分泌されるホルモンで、血液中のブドウ糖を筋肉や肝臓、脂肪細胞に取り込ませる働きをしています。
食事をとって血糖値が上がると、それに反応してインスリンが分泌され、血糖値を一定の範囲に保つように調整されます。
このインスリンの働きがうまくいかなくなると、血糖値が下がりにくくなり、結果的に高血糖状態が続くようになります。
こうした異常のはじまりが、糖尿病予備群の体内で起きているのです。
インスリン抵抗性
インスリンの働きに対して、筋肉や肝臓、脂肪細胞などの反応が鈍くなる状態を「インスリン抵抗性」と呼びます。
原因には、肥満(とくに内臓脂肪)、運動不足、過食、加齢、ストレスなどが挙げられます。
この状態になると、通常の量のインスリンでは血糖値を十分に下げられなくなり、血糖が高いままになってしまいます。
すると膵臓は、なんとか血糖を下げようとインスリンを過剰に分泌しようとしたり(代償性分泌)、高血糖状態が続いたりすることで最終的に2型糖尿病の発症や悪化につながる可能性があります。
インスリン分泌不全
インスリン抵抗性が長く続くと、膵臓のβ細胞に過剰な負担がかかり「β細胞疲弊(機能低下)」が生じます。
これが「インスリン分泌不全」と呼ばれる状態で、分泌量が減少したり、食後の適切なタイミングでインスリンを出せなくなったりします。
とくに、食後すぐに分泌される「初期分泌」が遅れると血糖スパイク(急上昇)を起こしやすくなり、インスリン応答が遅れることでさらに高血糖の状態が慢性的に続くようになります。
基礎的なインスリン分泌が不足すると、血液中のブドウ糖が増加し、高血糖の状態が続きます。
その結果、高血糖状態が続くと血管が損傷し、動脈硬化や糖尿病性腎症、糖尿病性網膜症などの合併症を引き起こす可能性があります。
また、体の細胞が十分なエネルギーを得られなくなり、疲れやすくなるなどの症状も現れることがあります。
このように、インスリン分泌不全に陥ってしまうと、インスリン抵抗性だけではなくインスリン不足という二重の問題を抱えることになります。
この状態は2型糖尿病の進行を示すサインでもあり、生活習慣の見直しだけでは血糖コントロールが困難になり、内服薬の追加やインスリン注射といった薬物療法の導入が必要になることもあります。
とくに注意が必要なのは、インスリン分泌不全が進行することで、食後の高血糖と空腹時の高血糖の両方がみられるようになる点です。
初期分泌の遅れにより食後に血糖が急上昇しやすくなり、さらに基礎的なインスリン分泌も不足することで、夜間や早朝にも血糖が高い状態が続く「持続的高血糖」のリスクが高まります。
このような状態が長引くと、糖尿病の合併症が進行するだけでなく、免疫力の低下や感染症への抵抗力の低下、さらには認知機能の低下や心血管疾患のリスク増加といった全身への影響も大きくなります。
症状がなければ大丈夫?身体に起こっていること
糖尿病予備群の厄介な点は、自覚症状がほとんどないことです。
空腹時でも特に異常を感じず、日常生活にも支障がないため、放置されがちです。
しかしこの間にも、血糖値が高めの状態が続くと、血管の内側ではじわじわとダメージが進行しています。
血管内皮の機能が低下し、将来的には動脈硬化や心血管疾患のリスクが高まることもあります。
また、すでにインスリン分泌に負担がかかっている可能性があり、膵臓の働きがさらに低下すれば、本格的な糖尿病への移行は避けられなくなります。
症状がないからといって安心せず、今のうちから身体に起こっている変化を意識し、生活習慣の見直しを始めることが大切です。
2型糖尿病の発症を高める要因
糖尿病の大部分を占める2型糖尿病は、生活習慣や体質の影響が大きいとされています。
以下のような要因が、糖尿病予備群から本格的な発症へと進行させるリスクになります。
- 過食や高カロリー・高脂質の食事習慣
- 運動不足
- 肥満(特に内臓脂肪型肥満)
- ストレス過多や睡眠不足
- 加齢(40歳以上でリスク上昇)
- 家族に糖尿病患者がいる(遺伝的要因)
特に内臓脂肪が多い人は、インスリンが効きにくくなる「インスリン抵抗性」が起きやすく、2型糖尿病のリスクが高まることが知られています。
また、働き盛り世代では食事の不規則さや運動不足、ストレスなどが複合的に影響していることも多く、生活環境を見直すことが鍵となります。
2型糖尿病にならないために生活習慣を見直そう
糖尿病予備群の段階で生活を見直すことで、糖尿病の発症リスクを半減できることがわかっています。
実際、次のような基本的な生活習慣の改善が有効です。
- 主食・主菜・副菜をバランスよく摂り、糖質・脂質のとりすぎを控える
- 早食いを避け、よく噛んで食べる
- 毎日30分程度の有酸素運動(ウォーキングなど)を続ける
- 体重を適正に保つ(BMI25未満を目安に)
- 就寝前2時間以内の飲食を控える
- 質の良い睡眠をとる
- 喫煙を控える
また、食後高血糖の対策として、野菜から先に食べる「ベジファースト」や、間食の見直しも有効です。
無理な食事制限をするよりも、継続できる範囲で少しずつ改善していくことが長続きのコツです。
さらに、糖尿病予備群と診断された場合は、定期的に医療機関で血糖値やHbA1cをチェックし、変化を観察していくことが大切です。
健康な人よりも一歩踏み込んだ「未病」対策を行うことで、将来の健康を守ることができます。
糖尿病予備群とは、まだ糖尿病と診断されてはいないものの、血糖値が高くなり始めている段階のことを指します。
自覚症状がないまま進行するケースも多いため、健康診断などで「血糖値が高め」と言われたら、それは無視すべきでない身体からのサインです。
生活習慣の改善を始めるなら、今が最も効果的なタイミングです。
食事、運動、体重管理、睡眠など、日々の習慣を整えることで、2型糖尿病への進行を防ぐことが可能です。
予備群と診断されても落ち込まず、前向きに対策に取り組むことで、健康な未来を手に入れることができます。
「予備群」は、病気の入り口ではなく、「改善できるチャンスの時期」と捉えて、今日から少しずつ行動を始めてみましょう。
参考文献
- 糖尿病予備群といわれたら 糖尿病情報センター